すぐに理解できないものは、覚えるのではなく、文法概念のイメージをつかむ

私たちのところの小学生が語順訳を行っている時、例えば関係代名詞が出てくれば、その用語をそのまま使います。そんな難しいことを教えるのかと思われるかもしれませんが、伝えること自体は難しいことではありません。日本語に訳す場合、ある範囲の語句が、その前にある語句を説明するためにつながっていく、そのつなぎの働きをするのだといったことを伝えるだけです。訳すということが目的ですから、関係代名詞という言葉自体を覚えなさいというのではありません。むしろ色々な作品を訳していると、何回か顔を出すので、「あー、あれか」となり、なんとなく思い出す。一度出てきた事柄を、その場でわかるようにしなさい、というわけではなく、英語にはこういう働きをする言葉があるんだという、いわば紹介の繰り返しです。

Once there was a miller who was very poor, but he had a very beautiful daughter.

(小4教材 ’Rumpelstiltskin’ から引用。)

教科書で関係代名詞が出てきたときは、その働きの説明と同時に、次の問題を解きなさいというように、その働きを「理解」するための練習問題が与えられるでしょう。つまり、「理解」が求められます。しかし、その前提として、そこに至るまでの様々な文法事項は曲がりなりにも了解しているということがあるはずです。また、be動詞と一般動詞の区別もできていなくては関係代名詞の働きは理解できないでしょうし、主語や動詞の働きや英文の語順に慣れていなければ、それをすぐに理解するなどということはあり得ません。しかし、どの生徒も同じように歩んでいるわけではないので、理解できない場合、どうしても形式を覚えるということになるしかありません。しかし、もちろん覚えようとしても、英文のイメージが備わっていなければ難しいことには変わりありません。

説明自体は明快なことであっても、日本語にはないその働きを理解するためには、体験の積み重ねが重要になるのではないでしょうか。自分の力で訳すことを繰り返し、間違えてはまた一から訳し直しするといった体験は、知的筋力を作り上げます。言い換えれば、関係代名詞の働きの実感が色こくなっていきます。頭だけで説明を理解しようとするのではなく、体験からくる理解を深めるといってもいいでしょう。使い方をなんとか覚えて問題に臨むのではなく、訳を間違えることがかえって体験を有効にしていくのです。

一見遠回りに見えるかもしれませんが、語順訳体験を積み重ねる方が効率的であると思われます。問題を当てずっぽうで解き、○だった×だったで修正しつつ、理解を進めるのも一方法でしょう。しかし、語順訳をしたり、逆に英作を行う過程は、関係代名詞の働きを肌で感じ取る力をつける過程でもあるのです。英語学習の初級に位置していると自覚されている方は、ぜひこの筋力をつけ、肌で感じ取るという判り方を試してみてはどうでしょうか。言い換えれば概念を理知的に理解するというのではなく、イメージとして育てるということになります。練習問題を解くことを通して、説明内容を理解する方法から一度離れてみてはいかがですか?もちろん、そのためには英文をたくさん音読し、スラスラ言えるようになるまで努力することは欠かせません。でも、それは、説明を無理やり覚えようとするよりはずっとシンプルで、今すぐできることでもあるのです。特に関係代名詞のように、日本語に訳す場合、どうしても語序が英語とは逆さまになります。英文を読むことに慣れ、英語の語順に沿って意味がつかめるようになると、この逆に訳すという状態を乗り越えることができます。

英語を母語とする人たちは、まさに語順に沿うように意味了解していくわけですから、その感覚を身につけるためにも、音読を怠らず自分の表現にまで高める気持ちで挑戦してみてはどうでしょう?関係代名詞をはじめ、難しい文法の説明は、仮住まいでの出来事なのです。初めは英日逆さまに訳さざるを得ませんが、音読の質が上がれば、語順に沿って意味了解できるようになります。My name is 〇〇.という英文はいちいち日本語にしなくても判りますよね。Myは人称代名詞Iの所有格。be動詞の後の〇〇は補語・・文法用語は覚えるためにあるのではありません。関係代名詞だって、日本語に訳してみたり、英作文で使ってみたりするうちに、その使い方のイメージがきっと手に入ると思いますよ。