大阪・天満と毛馬と商店街

大阪・天満と毛馬と商店街

大川(旧淀川)の春を、今から楽しみにしている。

7月には天神祭りで賑わうこの界隈に、一足先に花に惹かれて人が集う。花の名所は関西に数多くあるのだろうけれど、新しく開いた事務所から歩いていける、というのがいい。川があるのもいい。4年前夙川校開設の折も、川原沿いの桜並木と人々の喚声を楽しんだ。やはり川、である。散った花びらが川に華やかさを添える。「流れる」という風景にはなぜか人を癒すものがある。時の流れには時おり逆らいたくなるのに、川を見ていると記憶たちが浄化される思いになる。

加えて、天神橋筋の商店街がある。花と川に満たされた心だけでなく、気前よく身体を喜ばせるべく、消費の世界が待っている。そぞろ歩き、気の向くままに店に入る。気の置けない人たちとひと時の春宵を楽しむ。そんなことをずいぶん前から夢想させてくれる何かが、この天満というところにはある。なぜか。企業と商店、歴史と現在が交差し、ものの売り買いと利害を度外視した人々の付き合いのぬくもりが、春の風のように頬に触れる。

もうひとつ、蕪村である。生誕地の毛馬の堤は、かつて淀川の治水のため削り取られたとか。それでも、彼の「春風馬堤曲」にはいまなお、淀川の春の堤を歩ませてしまう魅力がある。言葉とリズムと音韻の鮮やかさは圧倒的である。この大川近くに事務所を構えると決めたとき、その地名が今も残っていることが、この地を選ばせた本当の理由かも知れない。

風土と文学、歴史と生活。まるで身に余る食卓を前にしたときの戸惑いと喜びを覚える。一つひとつ、一人ひとりにていねいに向かい合いたいものである。