5)どのような英文にも、「語り手」がいて、「聞き手」がいる、ということ
最後は「言葉に息を吹き込む」という話題です。
He is a doctor. という文があるとします。be動詞の説明のための例文として、あるい
は問題の一文として登場したとします。「彼は医師(医者)です」という意味です。そ
して主語を他の人称代名詞や固有名詞に変えた時、be動詞がどのように変わるかなど
が説明されたり、( )の中に正しい単語を入れなさい、といった問題が出たりしま
す。人称代名詞とbe動詞の一覧表を見ながら答え、表を覚えたら完成というわけです。
でも問題として出されたりしたら、つい間違えませんか?覚えた表に沿って解答すれ
ばいいとわかっていても、意外と表の中身を忘れたり、うろ覚えになってしまっていた
りして。表になっているのだから簡単なはずなのに、答えられないということがおこり
ます。どうしてでしょうか?
規則なのだから覚えてしまいなさいと言われても、人称ごとに変わるbe動詞のありか
たを「心」が納得していないからなのです。あるいは「主語」「動詞」というものがよ
くわかっていない場合もあるでしょう。その場合は「人称代名詞」というくくりかたも
しっくりきていないのかもしれません。知識というのはレンガを積むようにひとつず
つ重ねていくものです。
けれど、英語の規則や言葉の使い方が日本語で説明されているからと言って、すぐに了
解できるわけがありません。そこで、とにかく覚えて、記憶に残そうとするしかないの
です。でも知識ですから、ちゃんと納得できない限りは、覚えるのが嫌だという気持ち
も起こります。起こって当然です。心はいつだってものごとを納得したいはずなのです。
でも、部分的にしか知識が与えられないので、仕方がありません。
ただひとつ、納得できる方法があります。
それは、 He is a doctor. に〈息を吹き込む〉のです。
この文の語り手は、話し手は誰でしょう?いろいろありえますが、今この文を声に出し
て読むのがあなたであれば、あなたが「話し手」となります。そして話をしているわけ
なので、あなたの相手をしている「聞き手」がいます。ではHeはだれでしょうか。話
し手のあなたと聞き手にとって共通の知人かもしれない。あるいはあなたは知ってい
るけれど聞き手は知らない、いまふたりの共通する話題の中で該当する人物という場合
もあるでしょう。
聞き手「彼の仕事は何だっけ?」
あなた=話し手「彼は医師だよ」
このように聞き手の問いに対しての回答かもしれません。
あるいは、飛行機の中で急病人が出た時の会話。
聞き手「だれかこの中にお医者さんいらっしゃいませんか?」
あなた=話し手(自分の知り合いで眠っている人を指して)「あの人はお医者さんですよ」
このように文の背景を想像して、文を音読します。繰り返し上手に言えるまで。
He is a doctor.と書かれた文を簡単だからといって、なんとなく読むのではなく、
He → is → a → doctor.というように、話し手であることを意識して読みます。
ここではHeが主語だからbe動詞はisなどと考えなくていいのです。ただ想像し読む。
どんな文の場合でも、自分が話し手となり、聞き手を想定し何かを伝えるというように
考えてはどうでしょうか? とりあえず、知識は横に置いておき、できるだけ気持ちを
こめて音読し、文を自分のものにしてしまうのです。これはどういうことを表している
かと言うと、知識としてbe動詞をわかろうとするのではなくて、be動詞が使われてい
る文を生きるということにほかなりません。あたかも英語話者が話すように発話する
ことができていることになります。
これからはどのような例文に出会っても、かならず聞き手がいて、自分は話し手になる
と、想像して読んでみてください。そうすれば、知識学習もグンと進むと思います。
最後に。
どのような文にも必ず、その言葉が生まれてくる背景があるということを忘れないよ
うにしましょう。文の背景を想像し、読む場合は、自分が話し手になるのだと意識し、
聞き手と、話題との関係をしっかりつかめれば、英語はあなたのものになります。
まずは教科書の英文を語順訳してみてください。場面設定があります。誰かと誰かが話
しています。けれど、自分が読む時は、なんとなく読むのではなく、必ず個々の文章の
話し手になってみてください。英語がグンと近づいたように感じられると思います。