私たちが行っている「音読と語順訳」の効果をお伝えするのに、英語力がないと思い込んでいる人に登場してもらいましょう。
英語に関してはほとんど知識がない(あるいは学校で習ったことをほとんど忘れてしまっている)、また単語を読んでも、それが正しいかどうかに自信がない。
英会話に挑んでみても、パターン練習では色々な言い方を、自分から自由にできるようになるとは思えない。ある設定された場面ごとの会話は、そもそもそれほど面白くないので、飽きがくる。発音矯正が続くと、退屈で長く続けられない。
資格・検定試験を目標とした教室はレベルが高すぎて自分には合っていない。
ラジオやテレビ番組は色々あるけれど、一方的に話されるだけなので、自分が今どの程度できるかがわからない。自分の弱点が指摘されることがないので、進歩している感覚が得られない。つまり、自分の場合、何をどれだけやればいいかということの見当がつかない。
さて、そのようなあなたが挑戦できる学習法が世の中にあるのだろうか?
実際、書店に溢れている英語関連の学習書をみたら、ため息が出るでしょう。あなたに相応しい本なんて見当たらないのではないですか。初級と書いてあったり、中学教科書を使って学びなおしましょうなどと書いてあったりですが、読者が読み進めることと並行して、学力が積み重なっていくような幻想を抱かせるものばかり。かなりの努力を必要とするものばかりではないでしょうか。もちろんそれなりの努力が必要なことは了解できるけれど、努力の対象がありすぎて困っているでしょう。
こんな私ができる教室なんて、ない。そう決めてかかって何もしないでいるあなた。
まずやってみましょう。発音、単語に英文法なんて、細かいことは言いません。物語に真っ直ぐ向き合って、見本の音声に耳を澄ませて、とにかく真似て言ってみましょう。物語を訳しながら、少しずつ機会を捉えて練習し、マイペースで学べばいいのです。たとえゆっくりとした歩みでも、学習が進めば、努力する気持ちも湧いてきます。知識を覚えようとするのではなく、未知の物語に向き合えば、知識は後からついてきます。
物語を読むとなると、単語の読みから、その意味。そして文法の知識がいると思われているかもしれませんが、私たちの方法は、英語力ゼロと思われているほうがうまくいくのです。なぜなら、少しでも知識があると、それでもって解釈したくなりますが、そのようなものは邪魔なのです。
中途半端な知識は捨てて臨んでください。文章を訳するためのいくつかの約束事に慣れればいいのです。
さあ、ではちょっとやってみましょう!
以下の文を、まずは声に出して読み、日本語訳を言ってみてください。
One day, when the Little Red Hen was scratching in the garden, she found a grain of wheat.
どうでしょう、難しいですか。正確に単語を読めましたか?知らない単語がありましたか。そして、意味をとるために、あなたはどのような方法を取られたでしょうか?それに、訳をしようとして文の後ろまで目を走らせ(いわゆる「返り読み」)、なんとなく単語をつないで、日本語にしようとしませんでしたか。それとも自分の発音が恥ずかしいくらいカタカナ読みしかできず、しかもほとんどの単語を知らないから、全く訳すこともできなかったですか?
今は文字に書かれた文をお見せしましたが、見本の音声があれば、何度も聴く練習ができますよね。それに加えて英文に読み方が書いてあったり、単語や熟語の意味が書いてあったりすれば参考になりますよね。
私たちは、どのような方(年齢・学力など)でも学習できるようにするために、実際の使用テキストでは、色々と工夫をほどこしています。
まず、単語には「カナふり」をしました。しかし「カナ」をふると日本語読みになるのでは、という心配が生まれます。そこで私たちはいくつか新たな記号を使っています。
[th]の音は、○の中に、「ス」や「ザ」と書き入れて、ただの「ス」「ザ」ではないことを示し、[t]や[d]で終わる単語の場合、そのまま[t],[d]などと書いたりしています。これらの音は[ツ]や「ドウ」などとかくとかえって日本語読みになってしまいますので、そのまま覚えてもらいます。そしてもちろん見本となる音声が録音されている音源がありますので、その音声に忠実な再生を繰り返し練習することは必要になります。そして、単語や句には、その意味を書いています。単語や熟語は、それはそれとして覚える必要がありますが、訳をする時には、すぐ訳に取りかかれるようにするため、読みや意味を書いています。単語をたくさん知っていることは学習に有利ですが、あなたが今大人で、テストや入試あるいは資格試験などと縁がないのであれば、無理に覚えなくてもかまいません。何より、たくさんの物語を読み進めることが大切だと申し上げておきます。物語を読み進めるうちに、印象深い言葉にたくさん出会いますから、自然に覚えることもあるでしょう。
さて、英文の意味をつかむために語順訳という学習法があります。意味をとるのに、単語を訳したものだけを見て、つまり日本語だけを見て文にしたのでは、英語の学習にはなりません。私たちは英語の語順に沿い、どの単語も無視せずに訳す方法をとっています。短い文で説明しましょう。
He is a doctor.
He 彼は
is 〜である、(〜です)
(ここまでの日本語をつなぐと)
彼は〜である となります。
次にaが来ています。aやanは「一つの」という意味の単語(不定冠詞と言います)で、そのことを訳した方が良い場合もありますが、この文ではわざわざ「ひとりの」と訳す必要がありませんのでスルーします。doctorは「医者、医師」ですから、ここまでをつなぐと「彼は医者である」となります。
こうしないで、「彼は。です。医者」を見て、「彼は医者です」とつなぐと意味は取れますが、英語に対応した訳し方ではありません。あくまでも英単語が並ぶ順番に沿って、そのつど日本語として正しい並べ方をしていけば、英語と日本語とがいかに語順が異なっているかを体験的に学ぶことができるようになります。
先ほどの例文を日本語だけを見て文にしようとしても、苦労するばかりです。
「ある日・〜するとき・the・赤毛のめんどり・ひっかいていた・〜の中で・the・庭・彼女は・見つけた・一粒の・小麦」。英文が長くなると、日本語だけを見ていては、そもそも訳すことも不正確になりがちですからやめましょう。特に動詞が複数出てくると日本語にしづらくなります。
One day, when the Little Red Hen was scratching in the garden, she found a grain of wheat.
ある日
ある日、〜するとき
ある日、可愛い赤毛のめんどりが〜するとき(1番・2番)
ある日、可愛い赤毛のめんどりが引っ掻いていたとき
(引っ掻いていた+するとき⇨引っ掻いていたとき)
ある日、可愛い赤毛のめんどりが〜で引っ掻いていたとき(4番)
ある日、可愛い赤毛のめんどりが庭で引っ掻いていたとき(5番)
このように語順に沿って、一語ずつ加えながら訳していくのです。
私たちの訳を行う学習ためには、いくつかルールがあります。
1 英語の「主語」を訳すときは、「は」や「が」をつける
2 どのように繋いでも、英語の動詞は日本語では最後に訳す
3 目的語には「を」あるいは「に」をつける
4 単語の訳で「〜」がついている前置詞は、その直前の言葉を説明するので先に訳す
5 「〜」のところには前置詞の後にくる言葉を入れて訳す
6 「〜」のつく接続詞は、次にくる文を丸ごと入れる
他にもいくつかあります。
こうしたルールで、多くの英文を訳すことができるようになります。慣れてくれば、一語一語ではなくフレーズや文単位で一気に訳せるようになります。